粥日記

A fehér liliomnak is lehet fekete az árnyéka.

寝る前に読み聞かせてほしい安心感。『「がんばれ!」でがんばれない人のための“意外”な名言集』感想

人間は、最も多くの人間を喜ばせたものが
最も大きく栄える。

徳川家康

 

良かった、やっぱりそうなんだ。
これだけの短いフレーズだけど、ほっとした。名言って苦手だったのに。

 

大山くまお『「がんばれ!」でがんばれない人のための“意外”な名言集』ワニブックス) を読んだ。
「やればできる」「前を向いていこう」のような、一般的な応援を浴びることに居心地の悪さを抱えている人がいる。そんな人に向けて、名言ハンター・大山くまおさんが探し出した意外な名言を紹介してくれる本だ。

 

「がんばれ! 」でがんばれない人のための“意外

「がんばれ! 」でがんばれない人のための“意外"な名言集

 

 

冒頭の徳川家康の名言は「第3章 お金に効く意外な名言」(P180)で紹介されている。
私は、お金に限定せず、自分の仕事の方向性へのアドバイスとして、この言葉を受け取った。

 

「仕事なんだからしょうがないでしょう」と、お客様やエンドユーザーの思いを切り捨てるよう指示されることがある。いやいや、見てくれる人、使ってくれる人、読んでくれる人があっての我々の仕事でしょう、と言ってはみるが、偉い人の言うことは覆らない。
届けるべき対象者がいる仕事なのに、その存在を無視しなければいけないなら、こんな仕事は世の中からなくなってもいい。私は未熟なのでそれくらい捨て鉢に考えてしまうけれど、そうはいかない。お金を稼ぐことが大事だから。

徳川家康は「最も多くの人間を喜ばせたものが 最も大きく栄える」と言ったそうだ。
お金のために届けるべき対象者を切り捨てるなんて無意味だと、私は思う。だから、私は家康の言葉を信じて、制約の中でも「栄えるために人を喜ばすのだ」と自分を鼓舞していきたいと思った。

最近は、すっかり時代小説や歴史の本も読まなくなっていた。この名言集を読まなければ出会わなかった言葉だ。

 

 

私が「名言」というものが苦手なのは、多くの名言集では、書かれている言葉をすべて全面的に肯定的に紹介してくるからだ。言葉自体はすてきでも「このように生きないものは馬鹿だ」と言わんばかりに押し付けられると、心が弱ってしまう。

 

僕たちは「できるけどやらないだけのことさ」と
いつも自分に言いきかせているわけだが、
これは「できない」というのを別な言葉で言っているだけのことなのだ

リチャード・P・ファインマン

 

これは「第1章 仕事に効く意外な名言」(P104)で紹介されている名言。よくある名言集で見かけたら「うるせえ」とはねつけてしまうような言葉だと思った。「このように生きよ」と指示され、できてないことを責められているように感じてしまうからだ。
しかし、著者はこれを「できない人」ではなく「失敗が怖くて踏み出せない人」に向けて紹介している。

 

「できるけどやらない」のは「できない」と同じ意味。だったら、最初から「できない」と言うべきです。
なぜなら、あなたが「できない」とわかったら、「できる」人が手伝ってくれるかもしれないからです。

(P104)

 

「できないけどやらない」人を叱ったり、責めたりするためではない。「こう考えてみると、もっと楽に生きることができるんじゃないかな」という提案として、著者は読者に話しかける。やみくもなポジティブさで人を鼓舞するのではないのだ。「こんな言葉があるんですが、どうでしょうか」と、読む人の気持ちをおもんばかりながら、著者はスッと言葉を差し出してくれる。優しさにほっとする。

 

人が生きづらいのは、いろいろなしがらみで心身が窮屈になっているからだと思う。そこにさらにしがらみになってしまうような強すぎる名言は、もはや要らないのだ。
「昔、こんなお話があってね」とはじまる、寝る前の読み聞かせのような安心を感じられる名言集。言葉の優しさに包まれたいときに、また読み返したい。