静かなお粥のほとりから

A fehér liliomnak is lehet fekete az árnyéka.

偽りない“瞬間”が重なる幸せな写真集『松本穂香×川島小鳥 ジェラートってなに?』

両手の中に、松本穂香がいる。
指を動かせば、そのニットカーディガンの網目の凹凸をなぞれそうな現実感で。

手の中で、松本穂香は傘立てにもたれ、服を着たまま風呂に潜り、部屋の中でシャボン玉を吹き、日に焼けた電車のシートに寝そべる。
「何をしているの」と、ページをめくるごとに訊ねてみたくなる。
けれど、このまつ毛と涙袋がくっきりと縁取る目を見ていると、そんな自分の介入がひどく野暮なものに思えてくる。

誰のためでもない松本穂香を見られることが、うれしい。

松本穂香×川島小鳥 ジェラートってなに?: アートブックコレクション・アクトレス

11月9日に発売された写真集 松本穂香×川島小鳥 ジェラートってなに?小学館)。写真家の川島小鳥が、長野県を舞台に俳優・松本穂香を撮り下ろした。全64頁に加え、カバーの裏面にまでぎっしりと松本穂香が詰め込まれている。

ドラマ『ひよっこ』や『この世界の片隅に』、映画『みをつくし料理帖』などを見て、素朴で気取らないイメージを彼女に持っているならば、その印象のままの姿を見ることができる。

しかし一方では、「飛びます」と太字で4回書かれたTシャツ、古びたパブからドレス姿で出てきてそのまま草原に寝そべる姿、大きなおにぎりを顔に押しつけるようにして食べたかと思うと、今度は風呂桶を頭に乗せて洗面台の中で体育座りと、不思議な行動も多い。
それがキャラクターづくりのためとは感じられず、そのままの松本穂香なのだな、と素直に受け入れてしまう。顔をあげた“瞬間”、寝そべった“瞬間”、振り返った“瞬間”、まぶしさに目を細めた“瞬間”。そんな偽らない「瞬間」の写真が、多く収録されているからだろう。

 

手の平と同じかひと回り大きいくらいのB6変形というサイズも、彼女の空気感に合っている。大判の写真集だと意図するとしないとに関わらず出てしまう、ある種の迫力が抜ける。手の中におさまると、自然と、何か愛おしい存在のように感じられるから不思議だ。

どこか変わった行動をしてしまう上に俳優である彼女と、自分との少し遠い距離。それなのに、写真やロケーションの質感は、いま見ている風景の延長にあると信じられる現実味を帯びていて、そして彼女は自分の両手の平におさまっている。「ちょこん」という擬音がとても似合う親しみを持って。

その倒錯に浸るのは、なんだか贅沢なことだ。

 

〈違和感を見過ごさない
 きっちり見つめること〉

 

写真集の後半には、松本穂香の直筆でこのようにメッセージが書いてある。
その言葉にハッと気づかされ、また1頁目から写真集をめくる。一巡目のときには気がつかなかった彼女の“遊び”を、新たに発見できる。何度も、何度も。

「小さな幸せ」という言葉の在る意義に、この写真集で初めて納得できた気がする。

松本穂香 1st PHOTO BOOK「negative pop」

松本穂香 1st PHOTO BOOK「negative pop」

  • 作者:松本 穂香
  • 発売日: 2018/09/13
  • メディア: 大型本