粥日記

A fehér liliomnak is lehet fekete az árnyéka.

人を慰む創作物になること

「普段あんまりドラマも見ないし、本も読まないんだけど、池井戸潤作品は必ず見るんだ。知ってる? 『下町ロケット』とか『空飛ぶタイヤ』とか」

企業でサラリーマンとして日々働いている20~40代の男性から、定期的にこんな話を聞く。多少知っていても「見たことない」「知らないから、あなたがどんな風に好きなのか教えてほしい」とせがむ。すると、池井戸作品にどんな魅力があって働く自分にどんな風に響くのか、照れながらも弾む声で語ってくれる。お酒を飲みながらだったり、車やベッドの中だったりで、そんな話を聞くのが楽しい。

私は、会社で働くことから脱落した人間だ。だから、彼らが企業の中でどんな悔しさやもどかしさや諦めに目をつむって日々を過ごしているのか、わからない。話を聞いては想像してみるけれど、本質のようなものは全然見えない。たぶん、自分は一生そこには行けない、理解できることがない。そう思うから、羨望の気持ちがある。

すごいねえ。えらいねえ。
大人だねえ。かっこいいねえ。

こどもみたいな感想しか言えないのに、それを聞きたいと頼って来てくれる。『下町ロケット』の人たちも『空飛ぶタイヤ』の人たちも、たぶんそんなことはしないんだけど。でも、私は会社の中で何にもできないで来たから。企業で働く人たちを励ますことで、自分もそのしっぽに触れたような気分になり高揚する。私のどうしようもない未熟な面が、彼らを慰め自信を持たせる創作物の一部になれているのだとしたら、(それは社会的には良くないと思うけれど)個人的には少し嬉しい、気がする。

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