粥日記

A fehér liliomnak is lehet fekete az árnyéka.

世界に祝福されたエンターテイナー・渡辺直美写真集『NAOMI』

「風圧」を感じる写真集に、初めて出会った。
ページをめくると、ぶわっ! と顔に風が吹いて来たように感じる写真。
躍動感。迫力。そういう言葉はちょっと違う。
一人の女性が今を生きている事実と、彼女のとめどないサービス精神が、
圧となってこちらの視覚を襲ってくる。

 

2017年6月29日に発売された、芸人・渡辺直美初の写真集『NAOMI』
写真家・新田桂一が、芸歴10年を迎え世界を駆け抜けた渡辺直美の姿を捉えた。

 

NAOMI (ヨシモトブックス)

 

2016年9月から10月にかけて、渡辺直美は海外を駆け回っていた。
ファッションプロデューサーとして、そしてエンターテイナーとして、ミラノ、ニューヨーク、ロサンゼルス、台湾へ向かった。3都市でのワールドツアーライブでは、ニューヨークで500人、ロサンゼルスで800人、台湾で1500人を集めたのだ。

 

ニューヨーク、ロスはお客さんがはいらないかもと弱気で
100人キャパくらいでいいよ! と言ったら、
みんなにおこられました。

 

巻末の直筆書き下ろしエッセイに、不安や迷いが正直に綴られていた。
始まる前は弱気だったなんて1mmもわからないほど、写真の中の渡辺直美は笑っていて、自由な表情と振る舞いで、とにかく堂々としている。

ステージに上がる前だろうか、ヘアメイクさんに髪の毛を整えてもらっている写真。
金色の巻き髪がきれいだ。
ハリのある黒い布が彼女の体にぴったりと張り付き、少しだけ開いた唇には赤いリップがはっきりと塗ってある。
その強そうないでたちとうらはらに、ステージかモニターか、自分の前にある何かを見つめる瞳の力が少しだけ緩んでいる。
多くのポップでパワーに溢れる写真たちの中で、この1枚だけは「彼女は何を思っていたんだろう」という内心への想像を掻き立ててくる。

 

加工する時代の今、加工なし写真集に
したかったから、ニキビ、はな毛、ヒゲ、そのままです(笑)
何も加工してない そのままを見てほしいからです!

 
写真を加工していないという本人の言葉通り、もはや膜のような大量の汗も、力んで集まった顎のしわも、必死で広がり切ってしまった鼻の穴も、全てが映っている。
バックダンサーの男性が女性を持ち上げるときは、普通ならば涼しい顔をしようとするものだ。
だけど、男性が2人がかりで彼女を抱えるとき、胸板厚く腕もがっしりとした彼らが必死の形相を見せる。
そんな事実まで、少しもごまかさずに見せてくれる渡辺直美

エッセイでは、何かをごまかそうとして失敗したエピソードをいくつも披露してくれていた。
自分はごまかせない人だとわかったから、全てを見せたいと思うのだという。
クレイジーな自分をそのまま大切にできる芸人の仕事が天職なのだ、と。

 

一番好きな写真がある。
髪をカラフルな三つ編みにまとめ、鮮やかなブルーのワンピースの裾を持つ渡辺直美
天に向かって何かを叫んでいるのか、大声で笑っているのか。
大きな口を開けたその表情は、はっきりとは見えない。
その頭上の絵画には、雲の切れ間に青空が描かれ、天使が舞っている。

世界と彼女が強く繋がった一瞬。
世界が、笑う渡辺直美を祝福している。
そんな幸福を写したように見えた。

 

NAOMI (ヨシモトブックス)

NAOMI (ヨシモトブックス)

 

 

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